2030年、オフィスと働き方はどう変わるか
-傾向と最新事例から10年後のあり方を考える-
<有識者インタビュー後編②>

世界のオフィスに垣間見る未来型オフィスのかたち

未来を先取りしているオートデスク社のオフィス

ーー 今までご覧になったオフィスで、未来のオフィスや働き方へのヒントとなる印象的なオフィスがあれば教えてください。

妹尾教授:
1年半ほど前に訪問した、サンフランシスコのPier9(ピアナイン)にあるオートデスク社のオフィスには、これからの働き方のキーワードの多くが入っていると感じました。

波止場にある昔は倉庫だった場所で、秘密基地のような雰囲気でした。
オートデスク社は3D CADのツールやソフトを制作している会社であり、車の金型などの設計をする一方で、映画のCG制作などの「表現をする」事業もしています。

オートデスクにはプログラマーやシステムエンジニアのような職種の社員が多いのですが、海外から芸術家や社会活動家を「レジデント」と呼んで受け入れ、住居や給与、そして自社の商品や工作機械があるテックショップを自由に使用できる環境を提供しているそうです。たとえばイギリスの画家やケニアの社会活動家など、世界各国から「レジデント」が訪れ、滞在して自分の好きな活動をしているというのです。

オートデスクがレジデントたちに課しているのは、“見学で訪れた外部の人に、自分たちが行っている活動や使用している機材について説明すること”と、“オートデスクのソフトウェアプログラマーが質問をしたら答えること。できればソフトウェアプログラマーたちとコラボして一緒に作業をして欲しい”ということのようです。

芸術家や社会活動家にとっては、母国ではできない活動や、最新の技術を使った新しい取り組みができる大きなチャンスとなっていますし、オートデスクの社員たちにとっては「自分たちのユーザーがどういう人たちか」「今まで気づかなかった使用者側の視点」など、多くの気づきや表現への刺激を得るメリットがあるようです。

オープンで多様性があり、いろんな職種の人が共存し、リアルな場所ならではの価値を築いている。そして外部からレジデントや見学者を積極的に受け入れ、相互作用が高まるよう上手に活用している…など、これからのオフィスに有用と思われる要素が詰まっていました。

若い世代が担う新しいビジネスなら、オフィスのかたちも変わる

もう1つ最近訪問して印象が強かったのは、韓国 ソウルのKmong(クモン)のオフィスです。
ネット上に場を作り、自分の仕事を売りたい人と買いたい人を媒介するプラットフォームビジネスをしている会社で、大学を出たばかりなど社員の平均年齢がとても若く、エンジニアが多いのが特徴的です。

このオフィスにはゲームコーナーがあり、バイク型などさまざまなコンソールが置かれています。
ここに好きな時に行って遊んでよい上に、会社内でゲームのコンペティションも開いている。
一番景色の良い場所にはマッサージチェアも置かれています。
また、50~60人ほどのセミナーが開ける、アリーナのような階段で囲まれたスペースがあって、その階段のところで視点を変えて仕事をしたりもできるという、とても自由な環境で働いているんです。

一方で、社内の誰かに何かをしてもらった時には、Thanksカードを書いて貼るコーナーがあり、助け合いが可視化されているのも印象的でした。
若い世代の働き方にとても合っているなと思う工夫がいくつもある点が印象に残っています。

―ー 前編の「いま、オフィスに求められているものとは」に続き、今から約10年先のオフィス環境やワークスタイルの予想と、象徴的なオフィス事例を教えていただきました。
さらなるオフィス環境や働き方の多様化を見据え、オフィスバコも常に顧客視点でオフィスづくりのサポートをしていきたいとの思いを新たに致しました。
妹尾先生、どうもありがとうございました。


【プロフィール】
東京工業大学工学院教授、博士(商学)
妹尾 大(せのお だい)先生

専門分野は経営組織論、経営戦略論、情報・知識システム
具体的な研究プロジェクトは、知識創造支援ワークスタイルとワークプレイス(クリエイティブオフィス)の分析、知識継承リーダーシップの調査、顧客コミュニティ戦略の調査、ナレッジマネジメントツールの評価手法開発など。
経営情報学会会長(代表理事)、オフィス学会理事(ワークスタイル研究部会長)。
主要著書に、野中郁次郎氏との共編著である「知識経営実践論」(白桃書房 2001年)、江口耕三氏との共著で経営情報学会論文賞を受賞した「ビジネス・エコシステムの形成プロセス ― エコシステム・エンジニアのためのフレームワーク ー」(経営情報学会誌 23(4), 273-293, 2015)などがある。

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職歴
1998年 一橋大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学
北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助手を経て、
2002年から東京工業大学大学院社会理工学研究科助教授(のち准教授)
2017年から東京工業大学工学院教授
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