
製品ディスプレイは会社を知ってもらう重要なブランディングツール
- スペース有効活用
- ブランディング
- 新たな取り組みのためのスペース整備
フタムラ化学株式会社
Point
- 最新製造機の導入をきっかけに製品ディスプレイを新規に導入
- 見せるのは製品、伝えるのは会社そのもの
- モノとしては予算オーバーでも、ブランディングを考えればデザインへの投資価値十分
昭和22年創業、愛知県名古屋市で設立されたフタムラ化学株式会社(以下、「フタムラ化学」)。国内に17ケ所、世界各地に13カ所の拠点を有する歴史ある化学品メーカーだ。コア事業は軟包装分野で主に使われているプラスチックフィルム事業。パンやおにぎり、米、野菜、菓子、レトルト食品、冷凍食品、アイスクリームなど、多岐にわたる食品のパッケージに使用され、「生産者から消費者へ、衛生的に鮮度を保持し、流通ロスを削減する」という重要な役割を果たしている。
会社名や商品名が一般消費者の目に直接触れることは少ないかもしれないが、実は世界中で多くの人々の暮らしを支えている隠れたグローバル企業なのである。
工場見学時の商品説明に利用するディスプレイの設置というと地味に聞こえるかもしれないが、フタムラ化学という会社の魅力を正しく知ってもらいたい、という想いが詰まったプロジェクトである。

オフィスの課題と解決
Before
工場見学における自社製品の説明やPRは今のままでよいのか
言葉だけでは説明しにくい自社製品。どうすればイメージしやすくなるか…
国内に6カ所の工場を有するフタムラ化学。「安心して使用されるものを、安定した品質で、安定的に」供給することを大切にしている。派手なPRを行って短期的な売上を大きく伸ばすよりも、良いものを安定的に供給することを旨としており、近年話題となっているサステナビリティ(持続可能性)を先取りしている企業である。
PR戦略で重視されているのが工場見学。製造過程や管理体制を見てもらうことで、製品や製造工程の質の高さはもちろん、フタムラ化学という会社の姿勢をステークホルダーに理解してもらうために重要な役割を果たしている。
工場見学の際に製品を紹介するディスプレイは、従来、2階、3階の工場エリアにあったが、工場エリアを1階に拡張し、最新製造機が導入されたことをきっかけに、1階に新たな製品ディスプレイを設置することになった。
After
ディスプレイの目的は商品を「見てもらう」だけでなく、会社を「理解してもらう」こと。
言葉でなくデザインで、フタムラ化学らしく、さりげなく伝える。
「自社製品の説明にあたり、もっと良い見せ方があるのではないか?」
製品それぞれの違いを、訪れた人にどのようにわかりやすく伝えるかは検討課題としてあがっていたが、当初目的としていたのは「いかに整理してわかりやすく見せるか」だった。
主役はあくまで陳列される製品。当初プロジェクトチームが想定していたのは、シンプルな直方体のハコだった。クリーンルームの中での施工の困難さを考慮すると、出来合いのものから選ぶことを考えていた。
今回、オフィスバコの紹介でデザインを担当したCBC Dテック株式会社(以下「CBC Dテック」)は、TVドラマの舞台セットなどのデザイン制作を数多く手がけている制作会社であり、デザインの力を知り尽くしている「伝え方」のプロ。
お客様が何を望み、どうしたいのか。お客様の要望を的確に把握し、さらにはヒアリング時には言語化されなかった潜在的な要望まで深掘りし、デザインに落とし込む。
CBC Dテックから提案されたデザイン案は、ディスプレイ自体のデザインにフタムラ化学らしいコンセプトを落とし込み、製品と一体となって訴求するものだった。

一つのポイントはフレームの右端につけた傾斜。施工負担は格段に高まるが、一部を少し斜めにするだけで、見え方がガラリと変わる。明るめの木目調とダークブラウンで切り替えたツートーンのパネルもスタイリッシュだ。
細部にもこだわり、使いやすく、訴求力のあるディスプレイに仕上がった。


ここまで作業↑Before
個々の製品をいかに分かりやすく見せるか
同社で扱っている包装フィルムには、それぞれ製品名があり、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、無延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)、一軸延伸フィルム、リニアローデンシティポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルムといった名前が付いている。なにやら難しいワードが並び、一回聞いただけでは覚えられそうもないが、消費者が日々接しているものなのである。

After
商品紹介は会社紹介。製品をわかりやすく見せるのはもちろん、会社の方針との統一性、ブランディングの視点が大事
直接的な依頼内容としては、工場見学のプレゼンターがスムーズに説明でき、かつ見学者にわかりやすく製品を伝えられるデザインだった。
依頼を受けたCBC Dテックは、すぐにはデザインを描かず、クライアントであるフタムラ化学のホームページや会社が発信する情報をひたすら読み漁り、どういう会社なのかを社内で議論したという。その過程で、会社の思想が見えてくる。会社が理解できれば、依頼に対してどのようなデザインを提案するのが良いか自ずと見えてくるという。

「フタムラ化学さんの場合は、日本人なら誰でも触っているような製品を作っている会社。知れば知るほど面白い、素晴らしい会社だということがわかり、それを伝えたかった」と語る担当の岡田さん。

フタムラ化学が大切にしている工場見学の重要性を共有し、しっかりと理解した上でデザイン制作に臨んだ。コーポレートカラーを巧みに取り入れ、統一感のあるデザインに。

Before
依頼先をどこにするか、とくに明確な軸があるわけではなかった
今回のプロジェクトでは複数の会社から提案を受けた。デザインについて、最初から明確な方針があったわけではなく、提案を見てから決めようというスタンスだった。
After
成功の鍵は、デザイナーが「伝えたい」と思える企業だったこと。
顧客の期待を超えたデザインだったが、決して奇を衒ったモノではなく
会社の方針や姿勢を読み解いて、ブランディングに沿った案を提示
身近にありながら知らなかったが、日本人のほとんどが使ったことのある商品を製造するグローバル企業。会社のことを調べれば調べるほど「この会社を知って欲しいと思った」と、デザインを担当した岡田さんは振り返る。
CBC Dテックは当初の要望の枠にとらわれず、デザイン案として6パターンを用意した。伝えたいことがたくさんあったことと、今回はデザインコンセプトのキーワードが与えられなかったため幅を持たせて提案したという。たとえば、商品を前面に出してシンプルにするか、SDGsへの取り組みが伝わるようにエコなイメージをだすか、コーポレートカラーを前面に出すか、など。
提案は予算をかなりオーバーしていたという。だが、そのデザイン性の高さが高く評価されて採用された。
設置場所がクリーンルームであったこともあり、施工しやすい無難なデザイン提案になりがちだが、CBC Dテックのデザインは、「あるべきデザイン」をどうやって実現できるかというアプローチ。その上で、オフィスバコと協力しながら施工負担が少なくなるように工夫し、正確で安全な施工をできるように準備した。工事がスムーズに行えるよう、工程をしっかり管理するオフィスバコの役割も果たせたようである。
工場はこう変わった
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「安心して使用できる製品」を「安定した品質」で「安定的に供給する」ことを基本に、製品づくりを通じて社会に貢献するフタムラ化学株式会社。真面目な会社が、良い製品を安定的に供給する、その姿勢をどのように伝えるか。デザインには、いくら言葉を尽くしても伝わらないものを、さりげなく伝える力がある。
一新された製品ディスプレイについての評判を聞いてみると、社員から「格好よくなった」「スタイリッシュ」など、高評価の声があがっていると伺った。会社を知ってもらうデザインは、社員の皆さんにも伝わっているようだ。
人の印象と同じように、第一印象も大事。視覚的に入ってくる情報は、記憶にも残りやすく、ブランディングにつながる。品質・安全・環境を重要な使命として、真剣に取り組んでいきたいとプロジェクト担当の名古屋工場総務グループ日比さんは話していた。 -
見映えの良さだけでなく、使われることが大事
納入後の使いやすさも抜かりなくディスプレイデザインだけに留まらず、一緒に飾る説明用のポスターのデザインテンプレートも併せて提案したが、ここにもデザイナーの細やかな気配りがあった。
新製品が出ると、展示する製品だけでなく、説明用ポスターなども差し替える必要がある。そのためCBC Dテックが提案したポスターは、会社側で差し替えがしやすいように、テンプレート的に使えるようになっており、かつ、比較的シンプルなデザインにしているという。実際、最終的なポスターの印刷などは会社側で対応したが、綺麗に仕上がったという。 -
提案した他のプランも別の場所で採用に
実は、今回導入した工場内のディスプレイに加えて、CBC Dテックが提案した6案からのデザインを用いて、事務所脇のエリア(工場外)にディスプレイを設置する予定で検討が進められているという。
事務所脇に設置されるディスプレイは、目的もターゲットも異なる。採用される案は、よりコーポレート・アイデンティティを強く打ち出したデザインになっているため、より多くの来客者が接することになる場所での利用に叶っている。
多くの来訪者に、フタムラ化学の取り組み姿勢を感じてもらえるディスプレイになりそうだ。
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クライアント名
フタムラ化学株式会社
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事業内容
総合化学メーカー
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従業員数
1397名(会社・単体) 378名(名古屋工場)
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所在地
愛知県
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施工年月日
2024年9月
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施工範囲
ディスプレイの設置
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施工期間
1ヶ月
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手掛けた専門家
株式会社CBC Dテック
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取材日
2024年10月
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写真撮影
森田真悠