インタビュー

オフィスリノベーションが組織の変化を可視化し、促進させる
【河合電器製作所 佐久社長インタビュー】

愛知県名古屋市天白区と東郷町に拠点を持つ、河合電器製作所。オフィスをリノベーションするにあたり、本社・工場・事務所それぞれで働く女性4名でのプロジェクトチームが結成されました。一時は難航したものの、オフィスバコにご相談いただいたことで、リノベーションが無事完了しました。

▼プロジェクトメンバーの方々のインタビューはこちら
「オフィスバコは最後までサポートしてくれるのが魅力」中断しかけた改装プロジェクトが一転、コミュニケーションが活発化するオフィスに

では、経営者は今回のオフィスリノベーションをどうとらえているのか、代表取締役である佐久社長に、経営視点から見たオフィスリノベーションの効果についてお聞きしました。オフィス空間が生まれ変わったことで会社のブランドはより明確化。インナーブランディングにも効果的だったと語ってくださいました。【インタビュアー:オフィスバコを運営するSUVACO株式会社代表・黒木】

「こうでなければならない」という呪縛との葛藤

——(聞き手:オフィスバコ黒木)企業にとってのオフィスづくりは将来への重要な投資であると、私たちオフィスバコは考えています。オフィス(ハード面)への大きな投資を活かすためには、組織(ソフト面)にもそれに伴う変化が求められるかと思うのですが、今回のオフィス改装はどのようなタイミングで行われたのでしょう。

河合電器製作所・佐久社長:実は、当初はここまで大掛かりな改装にするつもりではありませんでした。プロジェクト自体は3つある工場のうちひとつの食堂が古くなっていたので、改装してきれいで洗練された空間にしようと始まったものです。模様替え程度の規模だったのですが、進めていくうちに「どうせやるなら」という感じで大きなプロジェクトへと変わっていきました。

——歴史ある会社を継がれた2代目や3代目の経営者は、伝統を継承しながら会社をどう発展させ変えていくかで悩まれている方が多いようです。特に貴社の場合、業績が安定している状況からさらに変化を求めるのは大変だったのではないでしょうか。

僕は会社の根幹である電気も機械も本来あまり好きではなかったのですが、子供の頃から「会社を継がなければならない」という使命感はあったので、そのためにはどうするべきかを考えていつも動いてきました。

大学卒業後は修行を兼ねて東京の電機メーカーに11年間勤め、2000年に河合電器に入社。まだ会社を引っ張っていく自信はないし何ができるわけでもありませんでしたが、組織づくりには興味がありました。東京の会社では日々勉強するのが当たり前の環境だったので、この会社も学習する組織にしたいと思っていたんです。でもそうしたマインドが根付いていない場所で僕が声を上げたところで、誰にも響かないわけですよ。どうしたものかと本を読みあさったりもしましたが、優れた成功者たちの「ねばならない」という言葉に縛られていくばかりでした。

一方、社員の前では何でもできるふりをしてみたりして現場とも衝突するばかりで、知らず知らずのうちに自分を追い詰めていたように思います。ついに体調まで崩すようになった時、経営陣よりも友好な関係にあった若い社員たちに自分の状況を正直に打ち明けたところ、「早く言ってくださいよ。いつも不機嫌そうだったのは、体調が悪いだけだったんですね」と言ってくれて。このことをきっかけに、自分の殻を破れたように思います。本当の姿をさらけ出して「助けてと」言えたことが大きかったですね。細かいことについては現場の方が良い判断ができるのは当然のことで、自分が正しいと思うのはおごり以外の何ものでもない。それからは、経営陣とも向き合えるようになりました。「こうでなければならない」という呪縛からも解放されて、自分のあり方で考えられるようになったと思います。

こうした経験の中で感じたのは、「人を変えることはできないけど、自分を変えることはできる」ということ。まずは自分をご機嫌で幸せにして、それが周りにも波及していけばいいわけです。組織や社会のためというよりは、どうしたら自分がご機嫌になれるかをまず考えるようになりましたし、それを社員にも実践して欲しい。弊社の社員は、自分たちがご機嫌で幸せになるためにどうすれば良いかを考えられる社員です。だから弊社には他社にあるような細かい就業ルールがありません。ルールを作れば管理されることになり、不自由さにつながると思うので、例えば育児休暇なども社員が自分で決めることにしています。いつ職場復帰するかを会社が決めるのではなく、自分が働けるようになった時に戻ってくればいい。それをみんなで吸収し、お互い様、お陰様で動いていけばいいと思っています。それが結果、組織を柔軟にしていくような気がします。

——社長自身が苦悩を乗り越えたから、本当の意味で優しい。貴社のサイトから感じる優しさや包容力にとても納得がいきました。製造業にある堅くて近寄り難い印象とはちょっと違いますよね。

メンバーを信頼して、任せる。

——私たちSUVACOは、普段住宅リノベーションのお手伝いもしていますが、住宅は主体がはっきりしているので想いを形にしやすい。一方でオフィスは、社長の想いと社員の想いの二面性があります。社長の想いだけを形にしてもそれが浸透せずに上手くいかないこともあるので、社員を代表する改装プロジェクトのメンバーはとても重要だと思います。一般的なオフィス改装では総務部が担当することが多いのですが、今回は各部署から選出したメンバーによるプロジェクトチームを作られたそうですね。

各部署から選出したのは、オフィス改装に限らず、基本的にはその場所で働く人が担当した方がいいと思ったからです。例えば人事においても、その部署の責任者が一緒に働きたいと思う人を引っ張ってこればいい。オフィス環境も、そこで働く人たちが働きたいなと思うような空間にすればいいと思っています。

プロジェクトメンバーのみなさん

オフィスバコさんとのご縁にしても同じで、どんな会社に依頼すべきかとメンバーに聞かれた時、人を見て決めるようアドバイスしました。業者も顧客と同じように、一緒にやりたい人とやればいい。オフィスバコさんなら同じゴールを目指せると感じたのでしょう。

プロジェクトメンバーには大体のコンセプトだけを伝えて、細かいことはすべて任せました。僕に「こうしたい!」というものがあっても、社長の想いだけでは何ともならないですからね。できたものに対して「ちょっと自分のイメージとは違ったな」と思っても、それも弊社の作品。自分の想いを強く押し出してもそれを社員たちが良しとしてくれるかはまた別の話だから社員が納得できていればいいんです。それに最初から完璧でなくてもいい。少しずつ改良すればいいのは経営も同じことで、悩みながら進むのが僕たちらしいのかなと。

——チームと社員と業者が、自分たちの働く環境を良くするために一緒になって考えるということや、結果と同じレベルでプロセスを大切にされていることがよく分かりました。ちなみに今回のオフィス改装におけるコンセプトは何だったのでしょう?

コンセプトは「本物志向」、それだけです。それをプロジェクトメンバーがそれぞれに解釈しながら話し合って、オフィス空間に落とし込んでくれました。本物を感じる力を養っていこうという思いを感じてくれて、床は木張り、家具は無垢材になったのだと思います。柱の角をなくしてアールにした柔らかいイメージも、僕の想いを汲み取ってくれてのこと。

家具はすべてウォールナットで統一されていますが、実は僕個人としては、もっと明るい空間をイメージしていました。でも出来上がった空間で過ごすうち、これもアリだなと思えてくる。自分の考えているものが一番だと思ってしまうと大変ですが、みんながハッピーになればいいと思っていれば、ある程度のことは受け入れられるんですね。

本社には社員が自由に使え、キッチンもある広々としたスペースが

今回のプロジェクトでメンバーが僕のところにやって来るのは、基本的には最終許可を得る時だけでした。僕から注文したのはなるべく音が響かない空間にして欲しいということくらい。それを受けて、会議室などには天井や壁の防音に加え、重厚なカーテンで吸音する工夫もしてくれました。それ以外での僕の役割と言えば、施工段階でメンバーたちの名前をさりげなく残したり、お疲れ様会を主催したくらいです。

オフィスの変化が組織にもたらしたもの

——左官職人の技が光る会議室の塗り壁の片隅にメンバーの名前が刻まれていましたね。メンバーの皆さんも喜ばれたことでしょう空間デザインは人の気持ちにも変化をもたらすと思いますが、オフィス空間の変化は組織にどのような影響を与えましたか?

今回のオフィス改装に伴うソフト面での大きな変化は、フリーアドレス制の導入により、これまで別々だった技術と営業がランダムになったことです。技術担当の隣に営業担当がいたり、技術担当が営業の電話を取ったりもしているようです。人の流れが変わり、いろんな動きが出てきたことによって、それぞれが新しい発想で仕事を進めていけるようになればと思っています。

僕個人としては入口のスペースが気に入っています。すっきりとした広い空間なので、アートギャラリーにしたり、いろいろ活用できそうで楽しみですね。

広々した本社のエントランススペースには、簡単な打ち合わせができるようなテーブルも置かれている

オフィスリノベーションをして感じるのは、会社の風土が大きく変わってきたことやその流れが分かりやすくなったということ。会社について、僕の希望よりも、社員が自分ごととして考え決めていく風土ができあがる過程に今いるのだと思います。オフィス改装によって、それが目に見える形になったことは大きいですね。先行していたインナーブランディングの効果も高まっている気がします。

僕は「ブランドには神様がいて、ブランドの神様には社長も従わなくてはいけない」と思っています。ブランドとは、「こうありたい」という社員の意識が作り上げるもの。みんなで考えることがブランドになっていきます。社員の服装ひとつにしても「社長が言うから」ではなく、河合ブランドとしてそれはアリかどうか。誰かが言えばルールになってしまうけれど、ブランドに照らし合わせて考えることはみんなできるし、これに勝る説得力はありません。

これまで定期的な勉強会で自由に考え発言できる機会を重ねながら、仕事のあり方、生き方までを広く話し合ってきました。その考え方をオフィス空間に落とし込み統一できたことで、さらにみんなの波長が合ってきたように思います。弊社の場合はインナーブランディングが先行してはいましたが、オフィスという空間そのものが与える影響力にも驚いています。働き方や働く姿勢にもダイレクトに影響するオフィスに、組織が引っ張られていくことも大いにあると思います。今後、新しいオフィスで予想以上の化学変化が起きることを期待しています。

対談を終えて byオフィスバコ黒木

今回のリノベーションのコンセプトとして掲げた「本物志向」、それはリノベーションの仕上げ素材や家具のことだけではありません。一時的な流行や外部の評価に踊らされることなく、河合電器としてホンモノを目指す。そんな姿勢が反映されていると思うのです。

過去に、生産量が何倍にもなるような大きな注文の引き合いがあったが、幹部社員たちと協議して、全員一致で断ったことがあるそうです。その注文に会社を合わせてしまうと、河合電器らしくなくなるから。

大きな成長機会よりも、河合電器らしい価値を継続して提供することをブレずに選ぶ。

そんな企業風土が反映された、今回のリノベーション。オフィスづくりは、その準備期間やプロセスも含めて、将来への重要な投資であることを改めて実感できました。

(取材・文/岡安香織 写真/森田真悠)

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