レポート

最新オフィス事例:本のあるオフィス 〜場と仕掛けで働きやすさと共創を〜

この数年で、テレワークとオフィスワークを併用したハイブリッドな働き方が急速に普及しました。オフィスは単に執務・会議・休憩などの決められた目的に沿ったスペースを提供するだけでなく、従業員がオフィスにくる意味を感じ、活きいきと働き、より高いパフォーマンスを発揮できる場としての付加価値をもつことが求められています。

オフィスバコでは、これからの時代に相応しいオフィスづくりに取り組む事例を紹介していきます。

オフィスリノベーションの背景

出版取次大手であり、「人と文化のつながりを大切にして、すべての人の心に豊かさを届ける。」ことを経営理念に、本を使ったコミュニケーション活性化などを積極的に手がけている日販グループホールディングス株式会社。

メイン事業である書籍の取次販売は業界として大きな変革期にあります。付加価値の高い取次を提供し続けるためには、従業員が創造力を発揮し、そして、アイデアを実現するための社内外のコミュニケーションが活発にはかれるような環境づくりに取り組むことが求められます。

撮影 鈴木文人

日販グループホールディングス社が御茶ノ水の本社をリノベーションし、グループ内ならびに社外パートナーとの共創が生まれる場を構築したとのことで、取材に伺いました。

オフィスライブラリーの効果

書籍を扱う会社に限らず、オフィスに書棚を設置するケースはよく見られます。オフィスライブラリーは、単に業務上参考になる書籍や雑誌を社員に提供するだけでなく、さまざまなメリットがあります。(具体的なメリットや進め方などは、「オフィスライブラリー」のススメ!知識やスキルの向上に役立ち、コミュニケーションを促進 を参考にしてください。)

書籍取次販売大手の会社だけに、オチャノバには充実したライブラリースペースが設けられていましたが、場を構築するだけでなく、従業員が実際に使って効果を上げられるように、様々な工夫がされていました。以下3つの点から、オチャノバのオフィスづくりを具体的にみてみましょう。

  • コミュニケーション活性化
  • 上質なデザイン
  • 創造性発現

コミュニケーション活性化〜本を媒介に、人が主役のオフィスづくり〜

「本を読む」という行為自体が直接コミュニケーションの手段になることは多くありませんが、本や雑誌のコンテンツに対して人が働きかけることで、書籍はコミュニケーションが活性化されるための触媒の役割を果たします。

日販のオフィスといえども、オフィスライブラリーは書店や図書館ではないので、蔵書数には自ずと限界がありますが、本の選び方やレイアウトの仕方でコミュニケーションが起こったり、本との出会いで発見や価値共有が行われます。

コミュニケーションを促進するために、オチャノバでは、オフィスライブラリーにカフェを併設しています。

ハイブリッドワークが進むなかでも、チームビルディングには、対面での交流やちょっとした雑談が欠かせません。執務エリアから離れたライブラリーに、人が集まる場所としてカフェスペースを併設することで、チーム内だけでなく、チーム外の従業員とも偶発的な会話が生まれ、コミュニケーションを活性化させます。

+αの工夫:顔が見える選書

場を作って終わりだと、次第に新鮮味がなくなり、活用されなくなります。そのため、オチャノバでは継続的に場が活用されるように、様々な仕掛けが施されています。

例えば、社員や関係者のオススメの本が並ぶ「1000人の本棚」。レイアウトもにもこだわり、誰がお勧めする本なのかを見える化することでコミュニケーションにアクセントをつけていきます。

本と一緒に社員の手書きコメントをつけることで、意味づけがされ、
一冊の本からコミュニケーションが広がります。

また、私が伺った時には、エレベーターホールに、新入社員が選んだ本が推薦文付きで並べられていました。外の世界から会社に飛び込んでくる新入社員のオススメに目を通していると、エレベーターを待つ時間も有意義に流れていきます。

また、カフェスペースには従業員の好きや得意のデータベース「ヒューマンライブラリー」が展示されており、仲間を募ったり教えてもらったりなどのコミュニケーションを促します。

また、従業員の偏愛(興味関心の最も尖った部分)を本を介してシェアするイベントなども開催されるのだとか。社員同士がお互いを知り、繋がるきっかけを提供しています。

新入社員が選ぶ本のコーナー、社員の偏愛を集めたコーナーなど、内容を想像するだけでも楽しそうな企画。こうした企画を社員主導で立ち上げることで、コミュニケーションが活発になるだけでなく、オフィスへの参加意識が自然と高まるという効果も期待されます。

デザイン性 〜引き締まった空間〜

書籍は上質なインテリア素材。素敵な装丁の書籍がセンスよく並べられているだけで、グッと引き締まった上質な空間になります。

撮影 鈴木文人

+αの工夫:小物やグリーンの活用

書籍は空間を引き締めますが、どうしても堅い印象になりがちです。オチャノバでも、書籍を引き立たせるために、小物やグリーンを積極的に配し、リラックスすることもできる空間にしています。

創造性の発現 〜InputとOutput〜

書籍のコンテンツに対して人が働きかけること、InputとOutputの活動を通じて発見や気づきの機会を提供したり、創造性の発現にプラスに作用します。

オチャノバのライブラリーには、従業員自身が選んだ書籍だけでなく、本と出会うための本屋「文喫」とブックホテル「箱根本箱」といったグループ会社によって選書された書籍がそれぞれのテリトリーに並べられており、従業員同士の交流促進の場、アイデア発想を生み出す場、学びの場、として位置付けられています。

オチャノバでは、ブックライブラリーに併設されるイベントスペースや、ラウンジや会議室など、内部や外部の人との交流の場を設けています。

閉鎖的な執務スペースではなく、オフィスライブラリーを通じて偶然出会ったり、緩く繋がった人々が、議論し、イベントに参加することでアイデアの種が生まれる可能性を増やします。

資料 日販グループホールディングス作成

オープンラウンジには、あえてオフィス家具ではなくDULTONの家具を採用して、くつろいだ雰囲気を演出することで、カジュアルなコミュニケーションをサポートします。

また、オフィスライブラリーが創りだす様々な「きっかけ」から、グループ各社の従業員や社外とのコミュニケーションを通じて、ビジネス上の新たな価値を生み出せるように、オチャノバにはクオリティの高い機器を備えた使いやすい会議室が設置されています。リアルとオンラインのハイブリッド会議に対応し、マイクスピーカーやワイヤレス接続対応のプロジェクター等のICT機器を備えるなど、ハード面もこれからのオフィスに必要なものが備えられています。

+αの工夫:ローカル&サステナブル

オチャノバは、本社のある御茶ノ水を意識したデザインが各所に盛り込まれています。

包み込まれるように外側に向かって登っていくライブラリーの床の傾斜は、周辺に坂が多いことを意識したものだとか。

また、家具や什器は、本社ビルに隣接する商業施設「お茶の水サンクレール」内の落ち葉や古紙を活用した製品を使用するなど、サステナビリティを重視した素材・製品を採用していると言います。

小さなこだわりですが、こうした地域とのつながり、サステナビリティへの取り組みが共感を生み、心地よさや、満足度を増加させるのだと思います。

まとめ:ショールームでなくオフィス

コロナ禍で、日販グループもハイブリッドワークの導入が急速に進みました。ハイブリッドワークが一般的となる中で、オフィスの在り方を見直し、ワンフロアを新たなオフィスとしてデザインしたといいます。人が集うことで新しい何かが生まれていくような場としてデザインした所を作りたいという願いがあったと言います​。

「オチャノバ」が設けられた7階は、従来は普通のオフィス執務スペースだったとか。実際のリノベーション計画は20〜30代のメンバーを中心にプロジェクトチームが担当したとのこと。

                      撮影 鈴木文人

他のフロアにはまだ旧来型のオフィスが残るものの、従業員は旧来型オフィスとオチャノバを上手く活用していると言います。今後、オフィス全体がどのように発展していくのでしょうか。+αのアイデアで、さらに可能性が広がりそうですね。

取材協力:日販グループホールディングス株式会社

オフィスのことでお悩みなら…

必ずしも大掛かりなリノベーションでなくても、「場」と「仕掛け」の工夫で、オフィスは変わります。

オフィスバコでは、オフィスづくりについて知識豊富なアドバイザーが中立的な立場から、オフィスのレイアウト・デザイン・内装工事・ICT・ドキュメント・オフィス家具選定に至るまで、個社の状況に応じて、オフィス環境の構築・見直しのトータルサポートを行います。お気軽にご相談ください。

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