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働き方改革やコロナ禍でのリモートワークによって、オフィス空間のあり方を考え直すオフィスリノベーションが増えています。フリーアドレス制などを導入してレイアウトを見直すのはもちろんのこと、居心地の良さを追求したインテリアも重視されています。
オフィス空間に求められるものが急激に変化し、住空間や商業空間などとの境目がますます曖昧になるなかで、今後どのようなインテリアが考えられるのでしょうか。
そこで今回は、上質なインテリアを幅広く扱う松坂屋 名古屋店の外商担当である粟原さんに、オフィスインテリアのポイントやトレンドについて伺いました。
——オフィス空間におけるインテリアの必要性をどのように感じていますか?
働き方の多様化が進む中、企業の意識も「いかにして社員の満足度を高めるか」へと強く向けられるようになりました。
求人においても、応募者が企業を選ぶ時代となった今、どれだけ快適な環境を用意できるかが重要となっています。大学構内が以前よりも洗練された空間になったのは、大学が学生を誘致したいから。それと同じ現象が、企業においても始まっているということです。
オフィス空間の環境整備へのニーズが高まる中、注目を集めているのがインテリア性の高いリノベーションです。
私は外商担当なので、お得意先である企業様のお役に立つことが仕事です。はじめは応接スペースのしつらえからご相談いただき、最近ではオフィス環境でのインテリアにも関わらせていただくようになりました。
限られた予算の中でもなるべく良いものをつくり、「百貨店だから安心して丸ごと任せられる」と言っていただけるよう、さまざまなオフィス空間のインテリアを手がけております。
——百貨店で家具やインテリアを整えるメリットは何でしょう?
「品質の良いものから幅広く選べる」ことが百貨店の強みだと思っています。近年では見た目が良く安価なものも多く流通していますが、百貨店で扱う商品はデザイン性だけでなく品質の高さも保証され、長くご愛用いただくためのアフターフォローも万全です。こうした点も含めて、価格に見合った商品をご提供できます。
また、国内外に取扱メーカーを数多く持つ百貨店ならではのバリエーションも魅力のひとつ。価格帯も幅広いため、ご予算に応じたミックスコーディネートが可能です。
私たちは商品と同様、サービスも品質の高いものでなければならないと考えています。企業様からのお問い合わせやご相談に対して、ひとつずつ丁寧に対応してきた積み重ねが、現在の信頼へとつながっているように思います。
——オフィスリノベーションは、どのようにして進んでいくのでしょうか?
総務部や人事部の方が担当になることが多いようですが、ほとんどの方が「最初に何を聞けばいいのか分からない」とおっしゃいます。
ですので、「食堂をつくることになったが、どうしたらいいか分からない」「食堂だけではもったいないから、社員が集える場にもしたい」といったご相談から始まることが多いですね。その後、完成時期や予算、ざっくりとしたイメージなどを少しずつ聞き取って、大枠を決めていきます。
適正な予算配分を行うため、最初は予算を多く割くメインスペースから手がけていきますが、その際に小さなことでもご要望はすべて伺うようにしています。
ご要望の中からどれだけのことが実現できるか、それぞれの企業様に合わせて何を優先していくべきかを考えます。プランは一気に決めてしまわず、少しずつご提案しながらその時々の意見を次回に反映していくことにより、方向性のズレを生じさせずスムーズに進行できます。
——今、コロナ禍という特殊な状況の中で、どういったオフィスが求められていると感じますか?
リモートワークが普及したことで、オフィスの席数は減っているように思います。固定席からフリーアドレスとなり、ゆったりとした空間づくりが多くなりました。
職場だからといって1日中同じ机に向かうのではなく、時には立ったままサクッと作業したい、少しリラックスしたい、1人になりたい、ソファで寛ぎながら雑談を交えつつミーティングをしたいなど、1日の中でも変化していく気持ちに応えられるよう、さまざまな用途に合わせた空間、環境づくりが求められています。
分かりやすく言えば、求められているのは「こんな環境で働きたい」と思ってもらえるオフィス空間です。これまでのように、毎日同じ場所で働く時代ではなくなった今、社員のためにいろんなシーンを想定し、時代の変化に対応したオフィスが必要とされています。
——フリーアドレスのメリットは、他にもあるそうですね。
フリーアドレスを導入した場合、個々の荷物や資料を収めるロッカーを設置するため、導入以前よりも情報をしっかり管理できるようになるメリットが生まれます。
いろんな人が出入りするオフィスでは、机の上に出しっぱなしにしていた資料から個人情報を意図せず見られてしまうことなどもあり得ます。
情報管理を重視するようになった現在では、帰宅時には机の上をきれいにして、資料はロッカーにしまってから帰ることが当たり前になりました。企業のコンプライアンスを守るためにも、情報をきちんと保管するロッカーの設置は増えていくでしょうね。
——最近のオフィスづくりのキーワードは、やはり居心地の良さでしょうか?
確かに、従来の無機質なイメージから、もう少し温かみがあって居心地が良く、センスを感じさせるオフィスに変えたいというご要望が増えています。そうしたところでは、特に我々百貨店の扱う家具やインテリアが活きるように思います。
なかでも最近支持を集めているのが、気持ちも明るくしてくれるような、開放的なオフィス空間です。開放感ある明るい空間が好まれるのは、カフェをイメージしていただければ分かるように、話が弾んでコミュニケーションが活発になるからではないでしょうか。新しい発想やアイデアを必要とする職場や、横のつながりを強化する環境づくりには特に良いと思います。
また、個性を表現することの多いレストランやサロンとは異なり、オフィスはシンプルでナチュラルな空間を求められることが多いです。利用する人の大半が心地良いと思えるのは、やはりシンプルな空間。レイアウトが変更しやすいことも大きなメリットです。
——開放的なオフィス環境で、空間にメリハリをつけていくことは可能ですか?
オフィスである以上、業務上どうしても仕切りが必要となることもあります。そうした場合には、仕切りとしての役目も兼ねられる家具やグリーンを提案しています。私たちは工事に関わるような大掛かりなことはできませんが、ちょっとした提案でそれに代わる役目を果たすことができると考えています。
例えば、グリーンを配置して視界を遮れば、人の目を気にせず話に集中できますし、グリーンを並べることで出入り口に誘導する壁を作ることもできます。見た目もおしゃれになるし、植物には気持ちが安らぐ効果があるのでストレス緩和や癒しにもつながるように思います。
また、限られたスペースの中で個の空間をつくりたいという時は、間仕切りにもなるソファを提案しています。これなら、パーテーションを使わず個室感を出すことができます。空間を圧迫することもなく、省スペースでスマートな展開ができるとご好評いただいています。
「ご自宅のような心地良さ」という視点から考えると、アートのご提案が可能なことも百貨店ならではの強みだと思います。アートひとつで、壁面の印象は大きく変わりますし、最近ではアートに興味を持つ若い方も多くなっているので、幅広いバリエーションから自社に合うものを選び取って導入いただけます。
女子寮のラウンジをコーディネートした際はラグもあわせて提案し、家のリビングで寛いでいるような雰囲気を演出しました。トータルコーディネートは私たちが特に得意とするところですので、企業メッセージをインテリアによってどう伝えていくか、企業様が持つ背景も含めて空間で表現できるよう心がけています。
——最後に、オフィスリノベーションで欠かせないことを教えてください。
外商という仕事柄、いろんな業種の企業様と長くお付き合いさせていただいていますが、その企業風土はオフィス環境に反映されるものだと強く感じています。トップの意思や何を大事にされているかは、オフィスの環境に強く影響します。
選び取った家具やインテリアのひとつひとつに意味があり、そこに企業の考えや気持ちが表れているように感じます。同時に、企業風土をうまく汲み取りながらバランスを取っていくのも私たちの仕事だと思っています。
ある企業様では、空間づくりをすべて社員が行ったうえで椅子の生地は選択の余地を残しておき、最後にトップが生地の色を選んで完成させたこともありました。
社内みんなの意見をどう反映させるか、いろんな立場の人をいかにして満足させられるかが、オフィスリノベーションでは欠かせない要素です。その調整役として、長い歴史の中であらゆる業種のお客様と深く関わってきた私たちが、そのノウハウを活かし、皆様のお力になれるようお手伝いしたいと思っています。
(取材・文/岡安香織 写真/森田真悠)