ノウハウインタビュー

オフィス緑化はテクノロジーの進歩で身近な存在に!日比谷花壇の取り組みと事例からみるグリーンが企業・社員に与える効果【後編】

「人は元来自然を感じられる空間を求める本能的な欲求がある」といった考え方を取り入れたデザイン=「バイオフィリックデザイン」が注目を集め始めた今、オフィスリノベーションにおいても緑化スペースの導入を希望する企業が増加しています。

オフィスリノベーションをはじめさまざまな規模の緑化デザインを行う日比谷花壇の保坂さん、芝山さんにバイオフィリックデザインがもたらす効果やオフィスにおすすめの植物、昨今の緑化事業を取り巻くテクノロジーの進歩などについて話していただいた前編に続き、インタビュー後半は実際にグリーンを導入した事例の数々や空間に合わせたグリーンの選び方などを伺いました。

前編はこちら

生木・フェイクグリーンにこだわらないハイブリッドな工法で広がる可能性

–これまで、生木を取り入れた緑化は難易度が高いイメージでしたが、おふたりの話を伺っていると「植物って実は思っていたよりも敷居が低いものなのかもしれない」と思い始めました。

保坂:生木を取り入れられるのは、一般の方ならガーデニングが好きな人、職人さんなら造園経験が豊富で長く培ってきた技術を持っている人など「選ばれた人しか手掛けられないもの」といった難しいイメージを持たれがちです。

だけど今はさまざまな緑化技術が整ってきています。我々も環境や要望に合わせて「この空間には生木が良いですよ」「この環境であればフェイクグリーンが良いと思います」といったように、自由な提案ができるようになりました。

–生木とフェイクグリーンの両方を織り交ぜて提案できるというのは日比谷花壇さんの大きな強みですよね。ところで、日比谷花壇さんでは緑化事業において、フェイクグリーンと生木の位置付けをどのように考えていらっしゃるのでしょうか。例えば内装に木材を使う場合、本当であれば無垢材を使いたいけれど費用や後々のメンテナンスを考えて集成材を使用するといったこともあるのですが。

保坂:これは企業や個人によって考え方が異なると思いますが、我々は「適材適所で扱うもの」といった考え方です。

実はグリーンって、「たとえそれがフェイクグリーンであっても、フェイクだと気付かなければストレスの軽減具合は生木とさほど変わらない」という実証結果が出ているんです。逆に、偽物だとあらかさまに分かるようにフェイクグリーンを取り入れると本来は生木を期待している分ストレスに繋がってしまうんですよね。

とは言え、先程申し上げたようにコストや維持管理費を考えた時にフェイクグリーンが選択肢となる場合もあります。ですので、我々が提案する際はその両方を適所に配置できるように考えて、フェイクグリーンを使う際もフェイクグリーンだと出来る限り分からないように織り交ぜながら提案を行います。

高い場所や奥まった場所、暗い場所はメンテナンスがしにくいのでフェイクグリーンを使用しつつ、動線上だったり目の行き届きやすい手前には生木を配置する、といった形ですね。

例えばこの空間は生木とフェイクグリーンの両方を使用しているのですが、どのあたりがフェイクグリーンか分かりますか?

芝山:こちらは「開放感を保ちつつグリーンを入れたい」という要望にお応えしてデザインした空間なのですが、グリーンは生木とフェイクの両方を使用しています。

保坂:中~低層部分は生木を使って、それ以外の部分はフェイクグリーンで作ってあるんですよ。

–間近で見ても、どこが生木でどこがフェイクなのかまったく分からないですね。

保坂:壁面緑化を使う場合であれば配植も考慮しながら、違和感が出ないように作っています。要望の中には「この部分には植物を置けないけど雰囲気を崩したくない」など制約がある場合も多々あるのですが、その空間に合わせていちばん効果的な形になるように、そして同時に維持管理が行いやすいように考えて提案しています。

フェイクグリーンの中にも、例えばこの木のように床の中に埋め込んだマグネットで固定して好きな場所に置けるようなものもあるんですよ。こちらは置く場所を選ばず導入できる点からも大変好評です。

–フェイクには手軽に取り入れられるという利点もありますよね。

保坂:賃貸物件のオフィスの場合は原状回復がマストであることが多いですよね。

これはカーペット部分の下にマグネットを設置しているだけなので、オフィス移転を行う際の原状回復も簡単にできます。このような商品も取り入れて、生木・フェイクにこだわらず、クライアントの環境にいちばん適した形を提案するよう心がけています。

我々は花とみどりの総合商社であると考えていますが、同時に固定概念に縛られないグリーンの専門家でもあります。適材適所の考え方はより良い空間を提供する方法だと感じています。

–トータルの出来栄え、使いやすさを考えて適材適所で提案するというのは建材とも共通した考え方です。素材だけにこだわりすぎず、いちばん良い効果を発揮できる方法は何かを考えることが大切なんですね。

保坂:今は栽培方法にしても生木とフェイクグリーンの選定にしても「これしかできない」という事は少なくなってきましたからね。この選択肢の広さがグリーン業界を後押ししてくれると感じています。

–ちなみに、場所ごとに適したグリーンというのは、他にどんなものがありますか?

保坂:例えば座って話すことが多い場所では、視線が自然と上方向に行くため天井から垂れ下がるようなハンギンググリーンが視界に入りやすく効果的です。

緑空間の効果的な設置について相談をお受けする際は「その場所は誰がどんな時間にどう使うのか」をイメージしながら考えていきます。

–吹き抜けのように高さのある場所と天井が低い場所では、きっと提案内容も変わってきますよね。

保坂:こちらは吹き抜けの構造を活用したバスルームの緑化事例です。

浴槽に浸かってゆっくりしようとする時、人は自然と上方向を見上げますよね。そこで1階から2階まで繋がる吹き抜けに壁面緑化を作ることで、視線誘導しながら空間に広がりを感じて頂けるようにしています。日本庭園でも見られる生垣の視線誘導効果とも似ていますね。

–先ほど仰られていた「どういった方を迎えるか」というのは、お店や事務所などの場合でしょうか。

保坂:例えばカーディーラーのエントランスを手掛けた際には「手前だけで完結しない空間」「奥はどうなっているんだろうと足を進めたくなる空間」を目指して作りました。

–グリーンの配置で人の行動や心理にも影響を与えることができるんですね。

不思議ですよね。「ここにいらっしゃる方はどういう視点の動きをするのかな」、「 ここに葉っぱがあればもっとリラックスしていただける空間になるのかな」といったことを考えて工夫しながら作っています。

あらゆる場所に気軽に植物を取り入れられる環境をつくりたい — 日比谷花壇の挑戦

–オフィスって「自然のままに生きる」という考えとは対極にある場所だと思うんです。だけど1日の大半を過ごす場所でもあるので、そこに植物を取り入れることは根源的なストレス軽減に繋がる気がします。

保坂:だからこそ積極的に取り入れていただきたい場所でもありますよね。オフィスで植物に触れ合いやすい環境を作るための技術は、植物以外のところでも進化しています。

例えば植物育成用LEDライト。こちらは今度当社から販売する『Well-light』(ウェル-ライト)という商品なのですが、これは植物が光合成を行う上で必要な光の波長に特化した製品です。

植物育成用LEDライト

普段デスクで使用している照明スタンドの電球をWell-lightに変えるだけで、そのスタンドがそのまま植物育成用LEDライトになります。

日比谷花壇は植物に囲まれた空間をデザインするだけでなく、あらゆる場所にグリーンを取り入れていただける環境を整備するところからお客様のお力になれるという強みがあります。

これまで植物やお花だけを購入できる場所だった店頭で、今後Well-lightといった植物育成に対して一歩踏み込んだ商品を取り扱うのは、日比谷花壇としてもこれまでとは異なる、また新しい取り組みでもあります。

–オフィス改装の場合、緑化スペースと照明などの照明周りをあわせてご提案いただくことができれば、より良い維持・管理が実現できそうですね。

保坂:そうなんです。先ほどの緑化空間でも天井部分にダクトレールを付けて、植物育成用LEDライトを設置しているんですが、十分な照度環境が無いと生木は次第に弱ってしまいます。

我々も照度シミュレーションを行い、「この部分にグリーンを検討するにはこれだけの明るさが必要ですよ」と植栽計画を提案する際には併せて必要に応じて照明配置もお伝えしています。

–ということは、空間の仕上げとして植物を導入することも可能ではあると思いますが、設計段階から入っていただくとより仕上がりのクオリティを上げていけるのでは?

保坂:それができれば、いちばん面白いものができると思います。もちろん仕上部分をお任せいただく形でも良い空間は作れますが、設計の計画段階から介入させていただいた方が本来必要な生育照度もしっかり取りながら、より踏み込んだデザインやご要望がグリーンを使って実現できます。

–オフィスリノベーションを計画する際に壁紙の色を明るくしたり窓を大きく取って採光を考えるのと同じように、緑化を設計段階から考える選択肢が入ってくると、より良い環境を作っていけそうですね。

保坂:グリーンを設置して終わりではなく、ちゃんと実績や技術に裏付けられた視点で先々までを考えたご案内や、従来より2、3歩踏み込んだところでのご提案ができれば、クライアントの方々にも安心感を持って任せていただけるのかなと思います。

まとめ

緑化に関するテクノロジーが大きな進歩を遂げ、以前よりもグリーンは身近で手のかからない存在になっているようです。より良いオフィス環境づくりの次の一手として、緑化スペースの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

取材・文/松永麗美

【お話を伺った方】 保坂悠平さん

株式会社日比谷花壇ガーデンデザイナー。個人邸から商業施設、オフィスなど広くデザインを手掛ける。また地域の多世代交流を目的としたコミュニティデザインプログラム「めぐりかだん」を監修。

日比谷花壇の緑化事業への取り組みを詳しく知るには
緑化事業サイト「ウェルネ」
※ウェルネは日比谷花壇の実績と知見をもとに、緑のチカラで人と社会の「Well-Being」の実現を目指す緑化事業サービスサイトです。

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