費用を抑えつつ大きな効果を得やすいことで人気の「壁紙」を使用したリノベーション。
これまでのニーズは「リラックス」「集中」など、働く社員を始めとする内側に向けたアプローチがメインでしたが、発信の重要性が見直されつつある昨今は、SNSや企業サイトに掲載する際のイメージづくりを念頭に背景となる壁紙を選んだり、会社を訪れる方に向けた企業ブランディングのひとつとしてエントランスを作り込んだりと、外側に向けたアプローチの一環として利用する企業も増加しているようです。求められるデザインが多様化、かつ、洗練されたものになる中で、壁紙を使ったオフィスのリノベーションが注目されています。
最近のトレンドや、壁紙だからこそ期待される効果にはどのようなものがあるのでしょうか。今回は、オフィスや商業施設などで使用されるデザイン性の高い壁紙・クロスを取り扱うWhO(「フー」)の近藤さん、河原木さんにお話を伺いました。
トレンドの鍵は「広がり」と「繋がり」?
まずはオフィス壁紙のトレンドと、実際によくご相談を受けるニーズとしてはどのようなものが多いのかを伺えますか。
トレンドとしては、ランドスケープのように室内であっても外の空気を感じるものや、ボタニカルなど働きながらも自然を感じられるようなデザインのものが挙げられます。
使い分けという部分でいうと、エントランスから横にずっと繋がっていくようなもの、柄は同じだけどエリアごとに色だけが移り変わっていくような広がりのあるデザインも人気です。
オフィスの在り方は働き方改革が進んだタイミングで大きな変革を迎えて、ただ「仕事がしやすい場所」としてだけではなく、コミュニケーションや居心地なども重要視されるようになりました。ですが、日本のオフィスビルには窓が少なかったり天井の高さなどで閉塞感を感じたりしやすいものも多いです。そのため自然や外の景色を求めるニーズが高く、結果としてそれがトレンドにも繋がっているような気がします。
また、ここ最近では幾何学柄やグラデーションなどのダイナミックな柄の商品も多く取り入れられています。
窓がなくても心地よい空間を感じられるなど、働く環境が社員のメンタルに働きかける部分は大きいですよね。壁紙リノベーションのメリットとして、他にはどのようなものが考えられるでしょうか?
スペースごとの役割を色でコントロールできることも、メリットのひとつだと思います。フリーアドレスなど席にとらわれない働き方が増えている中、壁で区切らず自然なゾーニングを演出できるのは便利ですよね。
また、ブランディング面で壁紙が果たす役割も大きいのではないでしょうか。最近増えてきたニーズのひとつに、いわゆる「映える壁紙」があります。
求職者が重視する項目に「オフィスの綺麗さ、オシャレさ」が入ることもあると耳にしますし、実際にオフィススペースの写真や社員の集合写真を自社サイトに掲載したり、SNSやメディアで発信したりすることを見越した内装デザインを考えている企業も多いです。
WhOでは企業のコーポレートカラーやロゴをあしらったデザインの壁紙などの制作も可能です。すべての壁紙を注文ごとに印刷するので、例えば「この場所にこの大きさでぴったり会社のロゴがおさまるようにしたい」などの要望も叶えられます。
SNSや企業パンフレットなど、オフィスの背景は多くの人が目にすることが多い場所ですし、視覚でダイレクトに伝わるぶん企業イメージにも直結しやすい部分でもあるので、洗練されたオフィスデザインがもたらすメリットは大きそうですね。
社員など社内だけでなく、求人を見てこれから企業に入る人、会社を訪れる外部の人などさまざまな人の印象を左右する部分ですからね。外に向けた取り組みは、これからより重要性を増してくるのではないでしょうか。
場所や用途に対して適切なデザイン・カラーリングを選ぶことが大切ですね。ちなみに、WhOさんの壁紙の強みはどのようなところにあるのでしょうか。
既製品のロール壁紙などの場合、柄のリピートなどデザインに制限があるものも多いのですが、WhOでは受注生産によって、空間に合わせてカスタマイズできます。そのため、広い壁面であっても、横にどんどん繋がっていくようなダイナミックなデザインや、空間の広がりが引き立つデザイン調整が可能です。
その他、デザインの拡大縮小にも対応できますし、施主様や設計士がイメージしたものを最適な形で再現できるのがデザイン面での強みだと思っています。
また、WhOでは写真家やデザイナー、アーティストなどさまざまなクリエイターのデザインを取り入れた「CREATORS」ラインも展開しています。クリエイターの感性をオフィスに取り入れたいとの声も多く、ご好評いただいています。
オフィス壁紙を選ぶ際のポイント
大きな範囲の壁の場合は塗装で対応することもありますがオフィス物件は塗装がNGな場合もあるので、壁紙やクロスでの対応が可能なのは嬉しいですね。オフィス物件は他にもさまざまな内装制限があることも多いのですが、壁紙を選ぶ際にはどのようなことに気をつけるべきでしょうか。
オフィスの場合は防火性能を求められるケースが多いので不燃認定を取得している壁紙を選ぶことをお勧めします。ただし、下地との組み合わせにより防火基準に届かない場合もありますので、石膏ボードなどの下地との組み合わせも含めて問題無いか、設計士や職人さんに確認しておくと安心なのではないでしょうか。
壁紙を貼るのが難しい場所はありますか?
基本的にその場所に合わせた下地が用意できれば、大体の場所に貼れます。最近では鉄扉やスチールパーテーションなど金属面への施工を希望する声も多いです。
一般的に金属下地と壁部分を同じデザインで統一するのは下地の問題で難しいとされていますが、WhOでは金属下地に対応した粘着剤付きの塩ビシートに、他部分の壁紙と同じ柄・デザインを印刷することが可能です。
従来は防火扉やエレベーターの鉄扉など金属部分で途切れてしまっていたデザインも、下地にあわせて素材を貼り分けることで、連続した一体感あるデザインとして再現できます。
オフィス改装となると施工期間も気になるところですが、大体何日くらい工事期間としてオフィスを空ける必要がありますか?
サイズや面数、改装する規模にもよりますが、フルリノベーションなどに比べると比較的短い期間で済むことが多いと思います。ちゃんと下地が出来上がった状態であれば、職人さんが2人がかりで1日で貼り終わった例などもあります。
壁紙リノベーションのコスト面を左右するのは、デザインと貼る面のサイズですか?
壁紙の価格以外で言うと、職人さんが何人、何日間必要になるかというところですね。
WhOの壁紙価格で言うと、通常のビニルクロスの場合は単色無地の「COLORS」が¥3600/m、定番人気の「TEXTURES」や「PATTERNS」が¥4100/m、クリエイターとのコラボ作品である「CREATORS」が¥4500/mで、他マテリアルに変更の場合は価格が異なります。価格はすべて税抜です。
また、アメリカやフランスの壁紙ブランドと協業して販売する「look.」や「LA TOUCHE ORIGINALE」なども揃えています。輸入壁紙のように製品をそのまま輸入するのではなく、国内で生産しているため、日本にない海外特有のデザインを安心な日本の規格で使用できるところがメリットです。
いずれも真っ白な無地の壁紙や量産の壁紙に比べると高額に感じるかもしれませんが、内装に木の無垢材や天然石など他の素材を取り入れた場合と比較すれば、むしろ低コストにおさめられる事もあると思います。
最近では天井など、壁以外の部分に壁紙を用いる事例も多いそうですね。
天井への施工も最近じわじわと増えてきていますね。ただ壁の場合は天地だけを気にすれば良いですが、天井は4方向のバランスを取りつつデザインをおさめる必要があるので、デザイナーや設計士、さらに施工する職人さんとも密に話し合うことが重要です。
「壁紙」と聞くと大きな面の貼り替えをイメージされることが多いかと思いますが、実は小さな面の貼り替えも可能なんですよ。たとえば柱にだけ壁紙を巻いてアクセントにしたり、最近ではミーティングブースやテレフォンブースなどの背景をひとつずつ違うものに変えたりといった、小さなスペースの貼り替え需要も増加してきています。
「壁紙」=「壁だけに使うもの」といった印象でしたが、今はあらゆるところに取り入れられるものとなっているのですね。
これまでの壁紙・クロスは単純に「壁に貼るもの」にカテゴライズされるものでしたが、それだけで括られるのはすごくもったいない資材なんですよね。先ほども少しお話ししましたが、例えば木や石のように数ある素材のひとつとして選ぶなら、壁紙は低コストな部類に入るものだと思うんです。
これまでは白い壁紙が一般的でしたが、それではあまりにもつまらない。デザインに個性を持たせたり、オリジナリティを演出したりと、壁紙だからこそできることは必ずあります。僕たちもデザイン開発の際には「壁紙でしか表現できないこと」を常にテーマとしています。
おわりに
室内空間のイメージを大きく変えるだけでなく、時には空間を実際以上に広々と見せたり、その場所で働く人の意識や気持ちまで変えられる壁紙。
フルリノベーションよりも手軽かつ費用や工事規模に対して大きな効果が得られるとして、すでに定番化しつつあった壁紙リノベーションですが、新たな視点でもって取り入れればオフィスにさらなるプラスアルファを期待できるようです。
真っ白な壁でも充分かもしれませんが、壁紙だからこそできることもたくさんあります。他の素材と同じように「空間を作るうえであえて選びとるマテリアルのひとつ」として選ぶことが、新たな空間づくりのきっかけになるのではないでしょうか。
取材・文/松永麗美
取材協力:WhO