インタビュー

対談:コロナ後のオフィスのあり方(前編)〜社員が出社したくなるオフィスについて「つなぐオフィス」の成功例から考える〜

コロナ禍を経た今、再び社員に会社で働くことを望む企業が増えています。しかし一方で、在宅勤務の継続を希望する社員も多いよう。相容れない両者間のギャップに加え、社員のエンゲージメント低下や希薄になっていくコミュニケーションなど、数々の課題をオフィスリニューアルにより解消したのが、2021年にABW化を主軸としたリニューアルを行ったコニカミノルタジャパン株式会社です。

※ABW(Activity Based Working)とは? 従業員が自由に働く場所と時間を自己裁量で選択できるワークスタイル

今回は浜松町にある『つなぐオフィス』を見学させていただき、株式会社CBCビップス松本、SUVACO株式会社黒木、そしてコニカミノルタジャパン株式会社山路常務の三者で『つなぐオフィス』の成功例から考えるこれからのオフィスについて語りあってもらいました。

(2021年にオフィスをリニューアルし『つなぐオフィス』をオープンしたコニカミノルタジャパン株式会社の取り組みについては、「テレワークが普及した今問われる「オフィスに行くこと」の意味とは?コニカミノルタジャパンに聞く」ご参照)

写真左よりコニカミノルタジャパン株式会社 山路常務、
株式会社CBCビップス松本、SUVACO株式会社黒木

「部門間の壁をなくせ!」 従来のテレワークからコミュニケーションの質を圧倒的に上げた、オフィス改装の肝

黒木  本日は松本さんとコニカミノルタジャパンさんの『つなぐオフィス』を見学させていただきました。私としてはすごくお洒落で特別なオフィスであるように感じましたが、社員の皆さんは日常的に『つなぐオフィス』に出社して、お仕事をされているんですよね。

山路  特定の執務室があるのは社長と私ともう1人の役員だけです。社員はその日の仕事内容や気分に合わせて、『つなぐオフィス』内の好きなエリアを各自選んで、業務にあたっています。

コニカミノルタジャパン株式会社 山路常務

松本  『つなぐオフィス』は1フロアが「High Focus」「High Collaboration」「High Creativity」「High Function」「High Secure」「High Innovation」「High Community」の7つのエリアに分かれていて、その中から自由に働く場所を選べるつくりでしたが、特に人気があるエリアなどもあるのでしょうか。

(資料)コニカミノルタジャパン株式会社

山路  人気があるエリアと人気がないエリアは、どうしても出てきますね。『つなぐオフィス』の中で比較的人気があるのは、「High Collaboration」エリアです。今日もワークショップを開催していましたね。

黒木  「High Collaboration」エリアは空間を隔てる壁が無いので、物理的にも精神的にも自由で行き来しやすい印象を受けました。

High Collaborationエリア内の緩やかに仕切られた空間。
隣のスペースでは別のプロジェクトが進行中

山路  部門間の壁は確かに無くなりましたね。

他部署の人の顔って、全然知らないことも多いじゃないですか。コニカミノルタジャパンも日本橋にオフィスがあった頃はまさにそういった感じで、エレベーターで顔を合わせても特別何か話すこともありませんでしたし、横の繋がりなどもそこまで無かったように思います。スペースとしては今よりももっと狭かったので、物理的な距離は近かったはずなんですけどね。

でも2014年に浜松町の今のオフィスに移転してからは、圧倒的に社員間のコミュニケーションが活性化しました。

黒木  隣の社員が何をやっているのかすぐに分かるというのは良いですね。完全に仕切られた部屋だと「隣の会議室で何かやっているけど何だろう」と思いつつチラッと覗いてみたりするくらいで交流にまでは至らないし、同じ会社なのにどんな仕事をやっているのかも全然わからないなんてこともよくあります。

松本  『つなぐオフィス』は、会議室もすべて中が見える作りになっていましたね。

山路  そう、だから各自が何をやっているか、大体わかるんです。

ガラス張りで中の様子が見える会議室
ガラスすらもない、オープンな会議室

黒木  顔見知りが増えることによってコミュニケーションが円滑になりそうですし、何より業務の上で協力し合えることも増えそうなのがメリットだと感じました。

私は元々金融業界にいたのですが、そこでは同じ部署内でさえも情報を隠すことが普通だったんですよね。チームごとに案件をフォローしているので、横のチーム同士の人間が業務内容について話すことはほぼ無い。もちろん情報管理は重要なわけですが、「自分が」どれだけ情報を持っているか、そしてそれを成果に繋げられるか、社外とのみならず社内でも競争している。意識しないとゼロサムの中での競争になってしまいがちな、そんな考え方です。

それが、金融業界を離れSUVACOを起業してみるとスタートアップのコミュニティはその辺りの感覚がまったく違っていて驚きました。「こういうアイデアを持っていて、こういうことをやっていきたい」「こんなことが課題だ」といった話を、同業者であってもみんな話しちゃう。スタンスとして「横同士でいろんなことを共有してみんなで新しいものを作っていこう」といった気質があるんですよね。

おそらくですが、若い会社が多いのでいろんな人に助けてもらわないとやっていけないから話すという面もあると思います。だけどそれ以上に、オープンに話すことで、そこから気づきやコラボレーションなどの発展性が生まれ、それによってアイデアが実現に近づいていくメリットが大きい。

本日、コニカミノルタジャパンさんの『つなぐオフィス』を見学しながら、そんなことを考えていました。社内での交流や出会いが生まれやすい環境で、アイデアを実現するためのオフィスになのだなと感じました。

SUVACO株式会社 黒木

松本  ただ、基本的にはオープンな環境が良いと思うのですが、時には隠したい情報などもありませんか?

例えば『つなぐオフィス』は基本的に社員のみが使用する執務スペースとして利用されていると思うのですが、他社のメンバーと一緒にプロジェクトを進める時もありますよね。そういう時はどうしているんですか?セキュリティ面で少し不安になることはないのかなと気になっていました。

山路  『つなぐオフィス』を使用しているのは弊社の社員だけですが、他社と何らかのプロジェクトを進める時は外部の事業パートナーの方々には下階に設置している専用のプロジェクトルームに出社していただいています。ここは登録した人だけが出入りできるようになっていますし、他にも適切なコミュニケーションツールやプロジェクト管理ツールを導入することで、セキュリティ面の安全性を担保しつつ情報共有を促進できる仕組みづくりを行っています。

社外メンバーとの打ち合わせ用のプロジェクトルーム

黒木  ハイブリッドな働き方が浸透してきた今だからこそ見えてくる、新たな課題も今後出てきそうですね。

山路  おっしゃる通り、コロナ禍を経てテレワーク導入が浸透した今だからこそ考えなくてはならないことは、たくさんあると思っています。働き方にしても、地域や業種、企業規模でその傾向はまったく違うことも解ってきました。

現在、主要都市や大手企業ではハイブリッドワークやABWを視野に入れて働き方を改善していく傾向にありますが、地方や中小企業の場合はテレワークやフリーアドレスを検討している段階にある企業も多いようです。

コニカミノルタジャパンでは自社で取り組んできた働き方改革のノウハウを活かしてオフィスリニューアルのお手伝いも行っているのですが、他社に提案する際も、各企業が抱える課題や地方ごとのトレンドなどを鑑みたうえで提案を行うようにしています。

社員が自ずと出社したくなるオフィスを作るうえでコニカミノルタジャパンが実践していること

黒木  現在、コニカミノルタジャパンさんのオフィス出社率はどのくらいなのでしょうか。

山路  コロナ禍を経て、浜松町『つなぐオフィス』の稼働率が現在大体40%。それ以外の拠点は70%程度を推移しています。

松本  もともと100%出社する前提でオフィスを作っていないんですよね。

山路  そうなんです。コニカミノルタジャパンのオフィスは東京の他に、大阪、名古屋、福岡、仙台、札幌に拠点を置いていますが、そのいずれのオフィスも、東京と同じく社員が100%出社する前提では設計していません。

黒木  今多くの企業が、再び会社で仕事を行うよう社員に促しているじゃないですか。もちろん在宅ワークにも出社して働くことにもそれぞれの良さがありますが、出社していると物理的に近い場所にいることによって作業時間が短縮できたり、何か問題が起こった時にもその場で解決できることが増えたりといったメリットがありますよね。

松本  今ってレスポンス重視な時代だから、確かに待ち時間や面倒なやりとりが減るメリットは大きいですよね。若手が先輩に質問するにしても、「隣にいるからぱっと聞きやすい」なんてこともありそうですし。

株式会社CBCビップス松本

黒木  コニカミノルタジャパンさんの『つなぐオフィス』を利用されている社員の皆さんは、オフィスに対してどんな感想を持っているのでしょう。リニューアル前と後で出社率は変化しましたか?

山路  従来のテレワークの時よりも、出社率はかなり上がりましたね。

経営側の立場からすると、最終的に重要なのは生産性とエンゲージメントの向上なんですよね。コニカミノルタジャパンが2021年にABWへと踏み切った時は、コロナ禍で下がった社員のエンゲージメントの向上と、新たな働き方としてハイブリッドにやっていける環境を作るという大きな目標がふたつあったんです。

このふたつを重視してリニューアルを行った結果、出社を呼びかけずとも社員が自ずとオフィスに集まってくるようになりました。

※いいじかん設計とは? コニカミノルタジャパンの働き方改革のコンセプトです。作業をこなす「作業じかん」を減らし、生まれた余白を新しいアイデアを生み出す「創造じかん」、視野を広げる「自分じかん」につながる働き方を実現します。

黒木  アンケートで「集中力が上がった」と答えた社員は全体の84%、「想像の質を高めることができた」「時間が短縮できた」など「“いいじかん設計”を達成した」と答えた社員は94%もいらっしゃるんですね。これはABWが生産性の向上に寄与していると、はっきり言えそうですね。

松本  この数字はすごいですね。だけどコニカミノルタジャパンさんでは社員への出社呼びかけはまったく行ってないそうで。

山路  コニカミノルタジャパンではトップメッセージとして「会社に来なさい」とは一切呼びかけていません。あくまで、「オフィスに来なければできないことや、オフィスに来た方が効率的なことがあれば出社したらいいですよ」というスタンスですね。オフィス出社を否定するわけではありませんが、出社が正解でもなく、目的に合わせて出社かテレワークか、働き方を選択するハイブリッドな働き方を目指そうということです。

もちろんコロナが5類に引き下げられたことで出社率が向上した部分も多少はあると思いますが、やはり、会社に来ることで業務の生産性が上がることを実感したりコミュニケーションが円滑になったりといった自身にとってのメリットを社員自身が実感することができれば、自然と出社したくなると思うんです。だから強制はしないですね。

コニカミノルタジャパンでは出社を呼びかけていないのに出社率が上がっていると語る山路常務

松本  やっぱり「働きやすさ」や「居心地の良さ」は出社するきっかけになりますよね。そこを担保することで生産性が上がれば企業としてもプラスになる。このふたつはオフィスリニューアルにおいての大きな鍵だと思います。

居心地の良さといえば、黒木さんの『SUVACO』って鳥の巣箱から名付けた社名でしたよね。鳥が巣箱に戻っていくように人が家に帰った時にくつろげる、快適で居心地の良い家を作りましょうというコンセプト。

快適さや居心地の良さが大事なのは、オフィスも同じですよね。『つなぐオフィス』にしても、たしかにあれだけ居心地が良いオフィスなら、カフェや家より絶対仕事がはかどるからみんな会社に戻って来るだろうなと思いました。

居心地が良いオフィスには社員が自然と集まりコミュニケーションが進む

黒木  ちなみに、2021年のリニューアル時には、その辺りも重視して作られたのですか?

山路  実はテレワークの導入や保管文書ゼロ化など、働き方改革自体は2013年から積極的に取り組んでいたんです。ですが、コロナ禍を経てこれまで以上に働き方の意識は多様化しましたし、その時代に応じた居心地の良さを作っていく必要があるなと考えて、2021年にオフィスリニューアルを行いました。

かなり大規模なリニューアルでしたが、変化に対応できるような余地を残しているんですよ。

黒木  将来の変化に対する柔軟性を意識したリニューアルだったということですか?

山路  そうです。将来の予測が困難な中で企業が成長を続けるためには、多様化した社員の声を拾い、様々な視点を捉えて進化を繰り返すことが重要だと考えています。ですので、オフィスも柔軟に変えられるように、置き家具や家具のサブスクを利用したりといった形で、工夫したリニューアルを行っています。

松本   オフィス家具の大きさや数って場所ごとに合わせる必要があるので、リニューアルのたびに苦労している経営者の方も多いと思うんです。置き家具やサブスクを活用するというのは、小さな会社でも取り入れられる良い方法ですね。

山路  あと、コニカミノルタジャパンではサブスク家具を使って調査・実験も行っています。社員に人気があるデスクを調べたり、社員たちがどのエリアでどういう働き方をしているのかを調査することで、生産性やエンゲージメントの向上に繋げようという意図があります。

社員にも定期的にアンケートを取っていて、その結果や稼働率にあわせて家具を入れ替えることもあります。新鮮さを保ちつつ、働きやすい環境に改善できるよう常に考えているんですよ。

松本  アンケートで思いもよらない意見が上がってきたことはないですか?

山路  プラスの意見もあれば、今後の課題になるような意見が上がってくることもあります。

例えば「High Focus」エリアは集中しやすくするために会話不可としたエリアなのですが、営業職の社員はお客様からしょっちゅう電話がかかってくるのでその度に通話可能な場所まで移動しなければならず、結果として「High Focus」エリアを使用することが難しくなってしまっているようです。

臨機応変に活動を変えられる空間作りや、「High Focus」エリア近くに通話可能な退避場所を設置するなどの導線設計が必要だなと、改善するための計画を今まさに進めているところです。

取材・文/松永麗美 写真/鈴木愛子

コニカミノルタジャパンの取り組みを詳しく知るには
つなぐオフィス|コニカミノルタのオフィスデザイン・移転ソリューション|コニカミノルタ

あわせて読みたい