ノウハウ

オフィスでのSDGsへの取り組み方法〜持続可能な職場づくりの実例

持続可能な開発目標(SDGs)は企業にとって重要な指標となっており、オフィス環境をSDGsに適応させることは、社会的責任を果たすために必要であるだけでなく、長期的な企業価値を高めるために重要であるとの認識が高まっています。

大企業・中小企業を問わず、持続可能な職場環境の実現に向けて、環境への負荷を減らしつつ、地域社会やコミュニティに貢献するとともに、従業員の働きやすさと健康を向上させるための様々な取り組みが行われています。

SDGsとオフィス:持続可能な開発目標の概要と意義

持続可能な開発目標(SDGs)は、国連によって策定され、社会、経済、環境の三つの側面を包括的に向上させることを目的としています。オフィス環境においてこの目標を達成することは、企業が取り組むべき重要な課題であるとの認識が高まっています。

社会的責任の実践と企業価値の向上

SDGsへの意識が高まり、消費者や投資家は、社会的責任を果たしている企業を評価する傾向にあります。社会的責任を実践することで、企業の持続的な成長を支える信頼性やブランド価値が高まります。企業が地球環境保護やコミュニティへの貢献に積極的であることは、求職者や顧客にも評価され、優秀な人材確保や市場での競争力の強化にも寄与します。さらに、取引先やその他のステークホルダーに対しても、持続可能な経営姿勢を示すことができ、長期的なパートナーシップの強化につながります。

従業員のモチベーションと健康促進

健康的で快適な職場環境は、従業員の精神的・肉体的な健康を支えるだけでなく、生産性や仕事への満足感も向上させます。例えば、自然光を取り入れたオフィス設計や、自然素材を使った内装、オフィス緑化の推進は、空気の質を改善したり、ストレスを軽減するなどの効果があります。また、従業員がくつろいだり、コミュニケーションを図ることができるカフェテリアや休憩室の重要性も見直されています。従業員が職場で過ごす時間が快適で健康的なものとなり、結果として企業の成功につながります。

地球環境保護への貢献

企業活動において環境に配慮した取り組みを行うことは、その企業の社会全体への影響力を高めるだけでなく、持続可能な社会の実現につながります。例えば、オフィスでのエネルギー消費を削減するために省エネルギー技術を導入したり、廃棄物を減らすためのリサイクルプログラムの実施、アップサイクルの取り組みなど、様々な取り組みが行われています。

シュレッダー済み新聞紙をアップサイクルしてボードに(株式会社日本エムテクス)
引用元:「アップサイクル製品を積極的に活用。企業のSDGsへの取り組み

オフィスの意味を問い直す

テクノロジーの進化と働き方の多様化により、オフィスの概念が変わりつつあります。テレワークやリモートワークの普及で、従来型の固定のデスクや部屋が不要になる傾向があり、物理的なオフィスの必然性が薄れてきているからです。

企業によってはオフィススペースを大幅に減らしたり、必要なときにだけ利用するコワーキングスペースへシフトしている会社もあります。こうした変化は、単に物理的なオフィス空間の削減だけでなく、企業文化や働き方自体を見直す契機となっています。コミュニケーションの促進、従業員がリフレッシュできる場の提供など、目的に合わせた空間設計が重要になります。

広々とした心地よい空間で、コミュニケーションもはかどる:アイジーエヴァース株式会社

また、リモートワークやフレキシブルな働き方を実現するためには、クラウドベースのデジタルツールや効率的なコミュニケーションプラットフォームなどの導入が鍵になることも多いようです。このようなツールを活用することで、地理的な制約を超えて、従業員がどこからでも効率的に働ける環境を提供することができます。

地球環境にやさしいオフィス

持続可能なオフィス環境を創るための具体的な取り組みを見ていきましょう。

省エネルギーを意識したオフィス設計

省エネルギーを意識したオフィス設計は、持続可能で環境に優しい職場環境を実現するために重要です。エネルギー消費を減らすことで、二酸化炭素の排出量を削減し、企業の環境負荷を軽減することができます。また、エネルギーコストの削減にも繋がります。

具体的には、自然光を適切に取り込むための窓の配置や、エネルギー効率の高いLED照明の導入、さらには断熱性能を意識した設計などがあげられます。自然光を適切に取り入れることで、昼間の照明需要を削減できるだけでなく、従業員のストレスを軽減し、快適な労働環境を提供することができます。LED照明は従来の蛍光灯と比較して消費電力が少なく、長寿命であるため、運用コストの削減にも寄与します。また、断熱性能を向上することで、冷暖房の効率が向上し、エネルギー消費を抑えることができます。

リユース・リサイクルの促進、ペーパーレス化

リユース・リサイクルを促進することで、資源の無駄遣いを減らし、環境負荷を軽減することができます。具体的な例として、不要になった家具や什器を再利用したり、オフィス内で使用される消耗品のリサイクル可能な素材への転換などが挙げられます。

環境配慮型のオフィス用品

職場で可能な身近な取り組みとしては、環境配慮型のオフィス用品の使用があげられます。具体的には、再生紙を使用したプリンター用紙や、環境ラベルが付いた文房具、再利用可能な食器やボトルの利用などが考えられます。

例えば一般社団法人GOMITAIJIの「REクリアファイル」プロジェクト。使い回しが敬遠されがちなクリアファイルですが、ラベルを貼るだけで環境意識の高い前向きな再利用に。

クリアファイル再利用(画像提供:一般社団法人GOMITAIJI

こうした取り組みは、環境負荷を軽減するとともに、社員や取引先にも環境意識の重要性を浸透させる効果があります。これらのアイテムは、日常業務での使用頻度が高いため、小さな取り組みでも大きな効果を生むことができます。

デジタルツールを活用した効率化・ペーパーレス化

デジタルツールを活用することで、業務の効率化とペーパーレス化が同時に可能です。例えば、クラウドベースのプロジェクト管理ツールやドキュメント共有ソフトを利用することで、リアルタイムでの情報共有が可能になり、紙ベースの資料を必要としなくなります。

引用元:「オフィスデザインのプロが考える理想のワーク環境~ミーティングボード編」

リモートワークの推進(フレキシブルな働き方)

リモートワークの推進は、従業員の働き方に柔軟性を持たせるだけでなく、適切に運用できれば、持続可能性の高い職場環境の実現につながります。通勤の必要がなくなることで交通によるCO2排出量の削減に寄与し、従業員のワークライフバランスが向上するため結果として生産性やモチベーションの向上にもつながります。

リモートワークを実効性のあるものにするためには、在宅勤務を可能にするためのデジタルツールの提供や、リモートでのコミュニケーションを円滑にするためのオンライン会議システムの導入が考えられます。デジタルツールを適切に使うことで、従業員は働く場所を自由に選ぶことができるようになり、多様な働き方が可能になります。

持続可能なオフィスデザインの実例

オフィスデザインと空間利用の最新トレンドや効果的な設計例を通して、持続可能性をオフィスデザインに取り入れる具体的な方法を解説します。

オフィスの適正サイズ化

オフィスを適正サイズに維持することは、効率的な空間利用とコスト削減に寄与します。リモートワークの普及に伴い、オフィスの使用頻度が変わる可能性もあるため、合わせて検討する必要があるでしょう。

適正なオフィスの広さを保つためには、まず従業員数と業務内容を考慮することが重要です。過剰に広いオフィスは、エネルギーの無駄遣いを招くだけでなく、高額な維持費用がかかる一因となります。一方でオフィスが狭すぎると、従業員の働きやすさや生産性に悪影響を及ぼします。

従業員数と稼働日に合わせた無駄のないオフィス:株式会社ブルーテック

サステナビリティを意識したオフィスは、働きがいのある職場環境として従業員の健康やモチベーション向上にも寄与します。そのため、最適なオフィススペースを確保することは、サステナブルなオフィスを実現するための重要な要素です。

オフィススペースの可変性・柔軟性で補える場合もあるので、検討してみると良いでしょう。

スペースの可変性:アイジーエヴァース株式会社

オープンスペースとコラボレーションエリアの配置

オープンスペースとコラボレーションエリアは、従業員同士のコミュニケーション促進、アイデアの共有やチームワークを強化する効果があり、創造的な業務環境を創り出すことができます。

例えば、共有テーブルやリラックスできるソファーなどを配置することで、自然な会話やブレインストーミングが発生しやすくなります。

引用元:「最新オフィス事例:本のあるオフィス 〜場と仕掛けで働きやすさと共創を〜」

また、専用の会議室やホワイトボードを備えたエリアを設けることで、より構造化されたアイデアの共有も可能となります。

引用元:「壁面ホワイトボードを活用したオフィスコミュニケーション活性化〜ポイントと導入事例〜」

自然光やグリーンを取り入れたオフィスデザイン

オフィスデザインに自然光や屋内植物を取り入れることは、従業員の働きやすさを向上させるための具体的で効果的な手段です。自然光を多く取り入れることで、人工照明に頼る時間が短縮され、エネルギー消費の削減が期待できます。また、自然光は人間の体内リズムに良い影響を与え、集中力やモチベーションの向上、さらにはストレスの軽減にも繋がります。

さらに、植物をオフィス内に配置することで、視覚的にリラックスできる環境が作られます。観葉植物は空気の浄化作用もあり、特に都市部のオフィスでは新鮮な空気供給の役割を果たします。緑の要素が加わることで、従業員の身体的および精神的な健康が促進され、結果として生産性の向上が見込まれます。最近では、手軽にオフィスにグリーンを導入する仕組みもあります。

引用元:「オフィス緑化はテクノロジーの進歩で身近な存在に!日比谷花壇の取り組みと事例からみるグリーンリノベーションの効果【前編】」

アップサイクル建材の活用

端材のアップサイクルは、廃棄物を削減し、持続可能な形で活用を実現する一つの方法です。端材を単純に捨てるのではなく、新しい価値を持つ製品へと変えることによって、資源の効率的な利用と環境負荷の軽減に貢献することができます。

例えば、卵の殻を利用して、卵の殻が持つ調湿機能を活かしたオフィス建材が作られています。この方法を採用することにより、廃棄されていた卵の殻が、機能性の高い建材へと生まれ変わりました。このようにアップサイクルは、資源の再利用を促進し、持続可能なオフィス環境を築くための効果的な手段と言えるでしょう。

少し踏み込んだ取り組みとしては、自社が出す端材をアップサイクル素材として活用する取り組みも行われています。自社の本業から出る端材をオフィス建材に用いる取り組みは、自社ビジネスを考える良いきっかけにもなるでしょう。

地域や取引先に開かれたオフィス

オフィスを地域や取引先に開放することで、相互理解と協力が進み、持続可能な関係性を築くことができます。もちろん、情報管理や安全の担保は必要ですが、オフィスの一部を積極的に見てもらう・使ってもらう取り組みを行う企業が増えています。

引用元:「最新オフィス事例:本のあるオフィス 〜場と仕掛けで働きやすさと共創を〜」

例えば、地域のイベントスペースとしてオフィスの一部を提供することで、地域住民との交流が深まり、地域コミュニティに対する企業の支持が得られます。また、取引先に対してミーティングスペースやオフィス機能を一時的に貸し出すことで、ビジネスパートナーシップが強化されます。

SDGsオフィス実現へ向けて

SDGs(持続可能な開発目標)の考え方をオフィスに取り入れることは、企業の社会的責任を果たし、持続可能な未来を実現する鍵となります。しかし、これを具体的にどう進めるか悩む企業も多いでしょう。

まず初めに、企業は明確な目標を設定し、具体的なアクションプランを立案することが重要です。次に、これらの取り組みを継続的に改善していくプロセスを整える必要があります。また、環境にも人にも負担をかけない施策を積極的に採用し、社員全体で取り組むことが求められます。

目標設定とアクションプランの立案

SDGsオフィスを実現するためには、明確な目標設定と具体的な行動計画が必要です。明確な目標があれば、組織全体が同じ方向に向かって進むことができ、効果的な施策を行うことができます。また、具体的なアクションプランがあると、進捗状況を常に把握し、必要に応じて改善策を講じることができます。効果的なSDGsオフィスを実現するためには、目標設定とその達成に向けた具体的なアクションプランの立案が不可欠です。

継続的な改善

継続的な改善を行うことで、持続可能なオフィス環境を維持し、さらに進化させることができます。身近なところから改善することで、社員一人ひとりが持続可能なオフィス環境の維持に貢献する意識を高めることができ、長期的な経済成長を実現するための基盤を築くことができるでしょう。

人にも環境にも優しいオフィス

人にも環境にも負担をかけないオフィスの運営を目指すことは、持続可能な企業経営を実現するために重要です。環境への負荷を減らし、同時に従業員のストレスや健康問題を最小限に抑えることができれば、企業は長期的に成長し、サステナブルな未来を築く基盤を固めることができます。

例えば、「節電」のために真夏に冷房設定温度を上げて、従業員に我慢を強いることは、望ましい解決策とはいえません。断熱性能を向上して、無理なく快適な職場環境を維持できる仕組みを構築することで、従業員に負担をかけずに環境負荷が軽減できます。

エネルギー効率の高い照明の導入や、採光のコントロールで電力消費を減らしつつ快適な職場環境を実現できます。自然光を取り入れることで、エネルギー消費を削減するのみならず、従業員のモチベーションや生産性も向上します。また、エルゴノミクスに基づいた家具を導入することで、従業員の体への負担を軽減し、健康的な働き方をサポートすることも可能です。

対症療法ではなく、企業が抱える課題に対して総合的に解決策を提供するアプローチは、企業の価値を高め、ステークホルダーからの信頼を獲得する上でも非常に重要です。従業員一人ひとりが健康で快適に働ける環境を提供し、同時に環境負荷を最小限に抑えることで、持続可能な未来を実現することができるでしょう。

社員の意識改革と持続可能な取り組みの推進

社員一人ひとりが持続可能性の重要性を理解し、積極的にその意識を行動に移すことで、企業全体のSDGsに関連する取り組みが効果を持ちます。

社内でエコキャンペーンを実施したり、持続可能性に関する勉強会を開催するという方法もありますが、日々社員が過ごすオフィスが、健康や持続可能性に配慮したものであることによって従業員の意識変化が期待できます。

このように、社員の意識改革を促進し、持続可能な取り組みを推進するための具体的な施策を実行することで、企業全体が持続可能な未来に向けた一歩を踏み出すことができます。

まとめ:SDGsオフィスで創る持続可能な未来

持続可能なオフィス環境の実現は地球環境保護という企業の責務を果たすだけでなく、企業の社会的評価や従業員の生産性向上、満足度向上など企業側にも多くのメリットがあります。

移転やオフィスリノベーションの際に意識することはもちろん大切ですが、まずは、企業や個人が実行可能な取り組みから始めてみてはいかがでしょうか。小さな変化でも、社員やステークホルダーの意識が変化し、積み重ねることで、大きな成果に繋がっていきます。

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